2024-10-03 20:42国際

米大統領選は「エリートVSポピュリスト」の戦い=都市と地方の分断際立つ―作家マイケル・リンド氏

 11月の米大統領選を巡り、全米で都市圏と地方の分断が際立っている。作家で社会学者のマイケル・リンド氏は著書「新しい階級闘争」で、この二極化を「エリート(支配階級)VSポピュリスト(大衆主義者)」の構図で捉える。民主党候補のハリス副大統領(59)と共和党候補のトランプ前大統領(78)が、行き詰まった現状を打開できるのか聞いた。
 米ブルッキングス研究所によると、2020年大統領選で勝利したバイデン大統領が獲得した郡の数は520で、トランプ氏の2564を大きく下回った。ところが、それぞれ獲得した郡が国内総生産(GDP)に占める割合は、バイデン氏が全体の71%を占め、トランプ氏はわずか29%だった。
 ―両者の支持層の違いをどう見るか。
 米国は人口密度の高い大都市で権力を有する高学歴のエリート層と、地方で生活し、製造業などで働く労働者階級に二分されている。前者の新自由主義的な政策が後者を抑圧し、労働者の政治的な発言権は確保されていない。左派と右派ではなく、上と下の対立と見るべきだ。
 ―具体的に何が起きたのか。
 投資家やプロフェッショナル(専門技術者)といったエリート層は富を独占し、政治資金で民主、共和両党を支配している。彼らは過去四半世紀、経済のグローバル化や製造業の海外移転を推し進め、地方の中堅労働者がその犠牲になった。代弁者だった労組も弱体化した。
 ―会社経営者だったトランプ氏も富裕層出身だ。
 トランプ氏は政界の「アウトサイダー」だ。数百万人の不法移民の排除を約束し、廉価な商品を輸出する中国に敵対的な態度を取っている。彼を「ファシスト」と呼ぶことは、彼に投票した人をそう見なしていることを意味する。主要メディアや大学教授も彼を嫌っている。労働者階級にとって、トランプ氏は抵抗の「手段」となる。それが強さの源だと思う。
 ―トランプ氏は分断の現状を変えられるか。
 トランプ氏は(任期中に)新たな経済ビジョンを打ち出せなかった。彼は大統領になりたいだけだ。(今回の大統領選で)労組幹部に支持を求める一方で、組合結成を試みた労働者を解雇した(米実業家)イーロン・マスク氏を称賛している。トランプ氏の危険性は、彼が独裁的というのではなく、能力が欠如しているため実質的に別の誰か(エリート層)が国を動かすということだ。
 ―ハリス氏はエリート層か。
 両親は研究者と学者というプロフェッショナルであり、非常に裕福な家庭で育った。出身地のカリフォルニアは民主党の中で支配的な存在。資金もシリコンバレーのハイテク産業から得ている。彼女はエリートで形成される体制の一部だ。
 ―ハリス氏は中間層支援を約束している。
 誰もが画期的なやり方を導入すると言う。しかし実際、国を動かしているのは数万人の政治任用者や公務員だ。彼女の(政権で任用される)官僚はオバマ、バイデン両政権から続く人になるだろう。選挙戦で何を言おうと、ハリス氏は民主党の基盤を代表することになる。
 ―ハリス氏の多様性は変化をもたらすか。
 多様性は、さまざまな人種や性が存在している状態にすぎない。労働者階級がエリートに対抗するためには、職業や宗教など人が個人的に愛着を持っている文化や信念に基づいたコミュニティー(労組や宗教団体など)に権力が分配されることだ。ポピュリストが抵抗するだけでは状況を改善できない。 
[時事通信社]

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