家賃、住宅高騰が直撃=立ち退き社会問題に―対策、重要争点に・米大統領選
米国の住宅価格や家賃が過去最高値圏にとどまり、中低所得層を直撃している。家賃が払えずに立ち退きを迫られるケースが増え、社会問題化。11月の大統領選では、住宅対策が重要な争点に浮上している。
◇物件、高級志向に
「大家が物件の高級化を図って家賃を上げ、払えなければ立ち退き訴訟を起こしている」。首都ワシントンに隣接する東部メリーランド州モンゴメリー郡の賃借人支援団体「モンゴメリー郡賃借人同盟」のマット・ロサクさんは、低所得者や高齢者の賃借人の苦境に危機感を募らせる。
全米50都市圏の家賃は今年8月時点で月1753ドル(約25万円、中央値)。コロナ禍直前の2020年初から2割超上がった。モンゴメリー郡での立ち退き件数は、22年上半期は月10~50件だったものの、今年に入って月100件前後に急増しているという。
住宅都市開発省の調査では、23年にホームレスを経験した人は推計65万人超と過去最高を記録。「コロナ禍で導入された立ち退き猶予措置などの終了が要因」(米ハーバード大報告書)とみられている。
住宅取得のハードルはさらに高い。8月の中古住宅価格は41万6700ドル(中央値)と、20年初から5割超上昇。「昔のように手頃に家が買えず、賃借人が増えている」(ロサクさん)状況だ。
住宅価格や家賃が高騰している背景には、長年の住宅供給不足がある。不動産バブルがはじけた08年のリーマン・ショック以降、住宅供給は抑えられてきた。米シンクタンク「都市研究所」のヤネカ・ラトクリフ副所長は、コロナ禍で在宅勤務が広がり、郊外の住宅需要が伸びる中、「地価や労働コストが上がり、利幅が大きい高級物件が建設される傾向にある」と指摘。「手頃な住宅は深刻な不足に見舞われている」と分析する。
◇割れる住宅取得支援
住宅不足の解消には供給増が必要との意見が多い。大統領選で民主党候補のハリス副大統領は「4年で300万戸の住宅建設促進」を掲げ、初めての持ち家購入者に対する2万5000ドル(約360万円)の頭金支援を目玉政策に据える。南部バージニア州の民主党支持者集会に参加していた教員のテリー・ジョーンズさん(40)は「住宅は今、とても取得しづらい。頭金支援は極めて重要だ」と歓迎した。
共和党候補のトランプ前大統領も連邦政府所有地を住宅地として開放する規制緩和を提案。頭金支援は住宅不足と価格高騰を助長しかねず、「大間違い」と切り捨てる。モンゴメリー郡の共和党議員候補者集会に出席していた会社経営者のリアダン・サリバンさん(64)は「カネはどこから来るんだ。結局納税者の負担になる」と、頭金支援に否定的だ。
住宅問題で公的支援拡大を目指す民主党と、補助金のばらまきと批判する共和党の隔たりは大きい。「多くの人にとって住宅は非常に重要。この問題を取り上げる政治家は誰でも歓迎だ」と、ロサクさんは訴えた。 (ワシントン時事)
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