岸田首相、退陣直前に「政治決断」=救済策、被爆体験者は反発―被爆体験者訴訟
岸田文雄首相は21日、国が定めた援護区域の外で長崎原爆にあった「被爆体験者」への救済策を発表した。退陣を目前に控え、同じ被爆地の広島出身の首相として「政治決断」をアピールした。ただ、被爆体験者を被爆者とは認めない方針は堅持しており、当事者は反発している。
首相は米国に向けて出発する直前の21日午前8時すぎ、首相公邸で長崎県の大石賢吾知事、長崎市の鈴木史朗市長と面会した。その後、記者団の取材に応じ、被爆体験者を対象に、被爆者と同等の医療費助成を年内に開始すると表明。「引き続き地元の皆さんの思いに寄り添いながら、政府としての対応を続けていく」と強調した。
被爆体験者の救済を巡り、首相は以前から解決に意欲を示していた。8月9日の長崎原爆の日に長崎市を訪れた際、被爆体験者と初めて面会。支援者の男性から「被爆体験者は被爆者だ」と大声で迫られる場面もあった。
首相は面会後の記者会見で「被爆体験者は高齢化している。早急に合理的に解決したい」と述べ、武見敬三厚生労働相に問題解決の検討を指示したことを明らかにした。
今回の決断について、首相周辺は「総合的な判断だ。なるべく当事者の気持ちに応えようと努めてきた」と語った。自民党の閣僚経験者は「まさしく政治的解決で、一つの区切りになる」と評価した。
ただ、救済策の具体的な中身は未定。詳細な制度設計は10月1日に発足する見通しの新政権に委ねられる。被爆体験者の一部を被爆者と認めた長崎地裁判決について、被告の県と市は控訴断念を求めていたが、首相は過去の判例と整合性が取れないことを理由に控訴する方針を言明。当事者らを落胆させた。
原告団長の岩永千代子氏(88)は取材に対し、救済策について「受け入れられない。首相を信じていたが、裏切られた感じだ」と厳しく批判した。
[時事通信社]
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