北極で過熱する覇権争い=米中ロの思惑、利害が交錯―軍事化懸念、高まる緊張・第1部「二つの北極」(2)〔66°33′N=北極が教えるみらい〕
海氷融解が進む北極で、米国と中国、ロシアの覇権争いが過熱している。ロシアはウクライナ侵攻で大きな損害を出しているにもかかわらず、北極の軍事施設を増強。「極地強国」を目指す中国は、インフラ・資源開発への投資を通じて影響力拡大を図る。中ロの連携に神経をとがらせる米国は同盟国と軍事提携を急いでおり、大国の思惑と利害が交錯している。
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◇依存と警戒
2007年8月、ロシアの有人潜水艇が北極点の海底にチタン製のロシア国旗を立てた。国際法上は何ら意味を持たないが、勢力圏を誇示する意図があったとみられる。
北極海は冷戦期、ロシア核戦略の中核を担う北方艦隊の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦が哨戒する「聖域」だった。近年、石油や天然ガスなどの資源が見つかり、ロシア沿岸の航路も開けつつある。プーチン政権は安全保障・経済権益を死守すべく、軍事拠点の再整備を続ける。
一方、ウクライナ侵攻を受け、欧米諸国がロシア北極圏の開発事業から撤退。資源採掘に必要な資金や技術を調達できなくなった。その穴を埋めたのが中国だ。米国防総省のグレッグ・ポロック筆頭部長(北極・グローバルレジリエンス担当)は「ロシアは政治・経済両面で中国依存を強める半面、中国の影響力拡大に大きな不信感を抱いている」と分析する。
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◇施錠された研究所
「世界上最北端的唐人街(世界最北の中華街)」。ノルウェー北部キルケネスで19年、こう記された中国様式の赤いゲートが建てられた。同年のフェスティバルのテーマに「中国の投資」が選ばれたからだ。
中国は18年に初めて「北極政策白書」を公表。資源権益の確保と北極海航路の利用を狙い、「氷上シルクロード」を建設する方針を打ち出した。グリーンランドの空港整備やカナダの金鉱山を含むインフラ・資源開発に投資。「雪竜」などの砕氷船やノルウェー領スバルバル諸島の北極観測拠点「黄河基地」を活用し、科学研究も活発化させる。
だが、中国の進出を危惧する欧米の反発で投資計画の多くは頓挫した。科学研究にも「軍民両用の情報収集が目的」と疑念の目が向けられる。ノルウェー当局者は「スバルバル諸島に集まる各国の研究所の中で、黄河基地だけ常に鍵が掛かっているという真偽不明の話もある。中で何が行われているのかは誰にも分からない」と指摘する。
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◇老朽船など2隻
中国と覇権を争う米国は、中国の影響力拡大を阻む構えだ。国防総省は7月、新たな「北極戦略」を公表。ファーガソン国防副次官補は、中国が「科学研究を隠れみのに軍事目的の調査を行っている」と警戒する。
特に注視するのが、中ロの連携だ。22、23両年に中ロ両国の海軍艦艇が、今年7月には核搭載可能な爆撃機が米アラスカ州沖で合同パトロールを行った。中国海警局とロシア当局は昨年、北極での協力に関する合意文書も交わした。
米国は北大西洋条約機構(NATO)加盟国と共に、北極の安定を維持する方針だ。だが、後手に回った感は否めない。米沿岸警備隊が保有する砕氷船は、老朽化した「ポーラースター」を含む2隻だけ。新造船を調達する計画は大幅に遅れている。
[時事通信社]
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