「飲みに行こう」、かなわぬ約束=募る後悔、元大学事務員―上智大生殺害、9日で28年
上智大4年の小林順子さん=当時(21)=が1996年、東京都葛飾区柴又の自宅で殺害、放火された事件は9日で発生から28年となる。「帰ってきたら絶対飲みましょうね」。同大事務員だった本田由美さん(73)は、留学目前の順子さんと交わした約束を鮮明に覚えている。「時間がたっても記憶が埋もれることはない」という。
順子さんは新入生と上級生の交流を深める「オリエンテーション・キャンプ」で、3年生の時に会計係を務めた。金庫のあった大学事務室を頻繁に訪れるうち、一緒に酒を飲みに行くほど本田さんと仲良くなった。
米国留学が数日後に迫った頃、本田さんは事務室を訪れた順子さんに飲みに誘われた。用事があったので断ると「なんだ、つまらないの」と順子さんは寂しそうな表情を浮かべた。「帰ってきたら絶対行きましょうね」。そう繰り返す彼女と再会を約束し、「気を付けてね」と送り出した。
順子さんの渡米2日前に事件が起き、本田さんは「受け入れられなかった」と話す。「あの時もし行っていたら」「何か話したいことがあったのかな」と、今でも後悔することがある。留学の思い出話を楽しみにしていたがかなわず、「あの日行けなかったことが悔しい。言葉では言い表せない思いがずっと残っている」と語った。
一方、オリエンテーション・キャンプの担当教員だった東郷公徳教授(60)は、順子さんについて「人懐こくて、照れたような笑顔が印象的だった」と振り返る。出身地が舞台となった映画「男はつらいよ」になぞらえて「葛飾柴又から来た小林順子です」と自己紹介するのが定番で、「誰とでも仲良くなっていた」と語る。
ジャーナリストを志していた順子さん。1年生の「英文学入門」の授業には、自ら題材を探してリポートを提出するほど熱心だった。「(事件に遭わなければ)国際問題を扱う特派員になって活躍していたのでは」と悔しさをにじませる東郷教授。「なぜ彼女が殺されなければいけなかったのか。一日も早く解決してほしい」と願った。
[時事通信社]
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