ナチスの影、街を分断=格差埋まらず極右肥大化―「よそ者」に矛先・ドイツ東部
ザクセンなど旧東ドイツの3州で、9月に州議会議員選挙が実施される。反移民を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が第1党をうかがう勢いだ。東西統一から34年近くを経ても旧西ドイツ地域との経済格差は埋まらず、不満の矛先は増加する「よそ者」に向かう。今月中旬訪れたザクセン州では偏狭な民族意識が街に分断を生み、第2次大戦後の独社会で長らくタブーだった、ナチスに同調する動きが顕在化していた。
◇難民待遇に不満
ポーランド国境にあるザクセン州ゲルリッツ。「ドイツで罪を犯した者は、速やかに国外追放されなければならない」。街外れのレストランで、AfDのゼバスティアン・ビッペル州議が熱弁を振るうと、立ち見を含む約100人の聴衆が大きな拍手で賛意を示した。
会場にいた60代の女性は「私は45年間働いたが、年金だけでは生活できない。外国人(難民)は働いていないにもかかわらず、たくさんお金を受け取っている」と不満をあらわにした。
AfDを巡っては、党首側近が今年1月、右翼活動家と移民の大量追放計画を謀議したと報じられた。ナチスのユダヤ人迫害を想起させる内容に社会は震撼(しんかん)した。AfDは反国家的勢力と結び付いていると認定され、公安当局の監視下にある。それでもゲルリッツ地区では、6月の欧州議会選で40.1%の高い得票率を得た。
ビッペル州議は時事通信の取材に「支持者はわれわれが極右ではないと分かっている」と強調した上で、「住民は国境に関わる犯罪に長年悩まされ、収入は国内で最も低い水準だ。街は変化を望んでいる」と語った。こうした訴えが、多くの外国人を受け入れ、環境保護やウクライナ支援などを優先する政治に置き去りにされたと感じる市民を吸い寄せている。
◇かぎ十字「当たり前」
州都ドレスデンから南西約20キロのピルナでは7月、小学校の児童らがナチスを象徴するかぎ十字を作ったり、右翼の間で流行している「外国人は出ていけ」という替え歌を歌ったりしたことが明るみに出た。「昔はあり得なかった。今は右翼の憎悪表現が当たり前になっている」。同じ学校に子どもが通っているという自営業の男性は嘆いた。
ピルナでは2月、ドイツで初めてAfDが擁立した市長が就任した。市庁舎では例年、LGBTなど性的少数者のパレードの時期に合わせて多様性を表す虹の旗が掲揚されてきたが、今年は新市長が取りやめた。
パレード主催団体副代表のクラウス・エルグナーさん(37)は、右翼思想を持つ人々から公然と侮蔑されることが増えたと感じている。「彼らはAfDの存在感の増大に力を得ている。だんだんとそれが『普通』になっている」と危機感を訴えた。ピルナに通う女子学生(17)は「対立するデモが繰り返され、街は分断されている。コミュニケーションが足りていない」と表情を曇らせた。
州議選は9月1日にザクセンとテューリンゲン、22日にブランデンブルクの3州で実施される。直近の世論調査では、AfDが各州25~30%前後の支持率で、優勢を保っている。
[時事通信社]
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