「語り伝え、つないでいく」=対馬丸事件で兄2人亡くす―記念館副理事長の渡口さん
学童疎開船「対馬丸」が米潜水艦に撃沈され、児童ら1400人以上が犠牲になった事件から80年。対馬丸記念館(那覇市)を運営する対馬丸記念会副理事長の渡口真常さん(74)は事件を風化させまいと、語り部活動などを続けてきた。生存者や遺族が年々減少する中、「しっかりと語り伝え、つないでいかなくてはいけない」と力を込める。
戦後生まれの渡口さんは、対馬丸に乗船していた当時10歳と8歳の兄2人を亡くした。仏壇の遺影でしか知らない兄たちの慰霊祭には、幼い頃から親に手を引かれて参加。その影響もあり、対馬丸についての活動に関わるようになったという。
渡口さんによると、現在確認できる事件の生存者は14~15人。このうち語り部ができるのはわずか2人にとどまる。「平和について自分のこととして捉えて伝えていけるかが、これからの語り部の課題」と話す。
「体験者ではないので親のことを中心に話す」という渡口さんが小学校などの講話で語るのは、仏壇に手を合わせる両親の姿や、自分を決して海で遊ばせなかった母の思い出だ。多くの児童が犠牲になった事実や、子どもを失った親の気持ちを知ってもらいたいという思いを込める。
「工夫を凝らせば伝えられることはたくさんある」として、講話では動画も活用する。「当たり前の日々が平和の意味だと分かった」という感想が寄せられたときは「伝わっているな」と手応えを感じたという。
「戦争で最初に犠牲になるのは子どもや女性、お年寄りといった弱者だ」。ウクライナやパレスチナ自治区ガザなど、世界中で起きている戦争を見聞きするたびに、対馬丸事件と同じだと感じる。「『子どもを戦争に巻き込まない』というこの記念館の思いが少しでも広がっていけば」と強く願った。
[時事通信社]
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