心育ち、伸びた技と体=佐藤、歴史変える初メダル―近代五種〔五輪〕
どうしようもなかった自分を変えてくれた。近代五種で日本勢初のメダルとなる銀に輝いた男子の佐藤大宗選手(30)=自衛隊=は、感謝の念を強さの源にしている。
10日の決勝。馬術で勢いに乗り、4位スタートだった最後の複合種目ではランと共に射撃がさえ渡った。2番手で迎えた最終周。「邪魔。気持ちで走り切る」。右手で帽子を投げ捨てて疾走した。ゴール後は寝そべったまま。青い空と歴史の重さをかみしめた。
自省を込めて振り返る。「小さな頃から短気。やんちゃとかじゃない。全然ダメだった」。水泳部だった中学と高校では、勝手に自由形から平泳ぎに変えた。失敗も受け入れられなかった。
高校3年で進路に迷っていた時、一つ上の兄と殴り合った。安易に「同じ自衛隊を目指す」と伝えたためだ。人命救助を志す兄の心を理解していなかった。なのに一緒に海上自衛隊に入る際、兄に「頑張ろうな」と握手を求められた。「自分の性格を何とかしたい。ここで人生を変えよう」。強く握り返した。
すると泳力を買われ、近代五種に誘われた。馬術、フェンシング、水泳、射撃・ランで構成される「スポーツの王様」。過酷ゆえに心技体の全てが求められる。
当初はコーチ陣に反抗したが、「ここで変われないなら強くなれない」。少しずつ素直になろうとすると、人が集まってきた。助言も、練習相手も、飲み友達も増える。健全な精神は、心身とも成長させてくれた。
誰にも明かしていない思いがある。「メダルを持って回り、僕が文句を言ってしまった一人ひとりに感謝の思いを伝えたい」。認知症を患う父、優しい母、一本気な兄、根気強いコーチ陣、「絶対に部隊に戻ってくるな」と言ってくれた厳しい上官、好物のだし巻き卵を作って待ってくれる妻。
五輪に採用されてから112年という重厚な歴史。2028年ロサンゼルス大会では障害物レースが採用されるため、馬術を含む近代五種では日本勢最初で最後の勲章となる。「支えてくれた人の顔が一瞬で思い浮かんだ。涙を流してしまった」。思いの詰まるメダルは、恩返しの印でもある。 (時事)
[時事通信社]
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