特定秘密、海自現場と乖離=「漏えい」定義も認識せず―不正常態化、複合的要因
国の安全保障に関わる「特定秘密」を巡り、海上自衛隊艦艇を中心に不正な取り扱いの常態化が発覚した問題は、海自トップが19日付で引責辞任する事態に発展した。特定秘密保護法自体が海自の現場の実情と乖離(かいり)し、実力組織の指揮官も法を熟知していないなど、根底には「ずさんな管理」という言葉だけでは片付けられない複合的な要因がうかがえる。
「今回の事案を受けて、そうだったのかと」。引責辞任する酒井良海上幕僚長は12日の記者会見で、海自中枢の海上幕僚監部でさえ、特定秘密保護法の根幹である「漏えい」の定義を認識していなかったことを率直に認めた。2014年の同法施行以来、定義を認識せず不正な扱いをしていた可能性にも言及した。
防衛省によると法解釈上、特定秘密を外部に漏らすだけでなく、特定秘密を扱えない無資格者が知り得る状態にすれば「漏えい」と定義される。政策立案を担当する「背広組」と呼ばれる同省内部部局は定義を知っていたが、海幕は部隊教育もしていなかった。同省は「定義について陸海空各自衛隊に周知していた」と釈明するが、制服組と背広組の風通しの悪さは、シビリアンコントロール(文民統制)上の危うさも露呈した。
特定秘密を扱うには「適性評価」を受けなければならないが、プライバシーに関わる調査があるため「必要な者に範囲を限って行う」とされ、海自は対象者を必要最小限度にとどめてきた。今後、2000人増やす方針だが、資格を得るには一定期間がかかる。
今回の不正にはイージス艦も含まれていた。特定秘密に関係する潜水艦探知や弾道ミサイル防衛の情報を扱う戦闘指揮所(CIC)には、無資格者の伝令要員も勤務していたとみられるが、閉め出されることになる。自衛隊内では「CICに伝令は必要なのに、有事に対応できるのか」との声がささやかれる。
今回処分を受けた護衛艦「あけぼの」のケースは、昨年11月に中東での海賊対処活動中、ミサイル発射関連情報が入電した緊急事態下での漏えいだった。当時の艦長はミサイルで攻撃される可能性が否定できず、CIC総員の情勢認識の共有のため大型スクリーンに特定秘密を表示したが、その場に無資格者1人がいたことが漏えいと判断された。
政府は防衛や外交の領域から、経済・技術などの経済安全保障の民間分野にも厳格な情報保全制度の網を広げようとしている。今回発覚した問題は、秘密でがんじがらめにすれば現場が回らず、組織に不正な運用がはびこるリスクも示唆している。
[時事通信社]
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