スカーフ強制、抵抗する女性=抑圧の象徴、着用拒否も―保守派は摘発支持・イラン大統領選
【テヘラン時事】イランで、公共の場で女性に義務付けられる「ヘジャブ」と呼ばれる頭部を覆うスカーフ着用を拒む女性が増えている。5日の大統領選決選投票に進んだ候補者2人は、摘発緩和を容認する改革派と着用の強制継続を掲げる保守強硬派で、主張は割れる。ヘジャブなしで外出していたイランの女性たちに思いを聞いた。
◇「マフサの死」
首都テヘランの街頭では、ヘジャブを首に巻き、髪を隠さず歩く女性をよく見掛ける。以前なら想像できない光景だ。「マフサの後に始めた」。皆がきっかけとして口をそろえるのが、2022年のマフサ・アミニさんの死だ。
アミニさんは同年9月、テヘランでヘジャブの「不適切な着用」を理由に風紀警察に連行され、3日後に死亡した。22歳だった。当局は否定するが、拘束下の虐待が死因とみられる。反発するデモ隊と治安当局の衝突に発展し、人権団体によれば、市民ら500人超が命を落とした。
エンジニアのマースメさん(50)は、外で髪を隠さない理由を「最初はマフサが死亡したことに憤り、その後は政府のうそに失望した」と話す。ヘジャブを着けない女性が路上で尋問される姿を何度も目撃し、自身も1度警告を受けた。「夫は理解者だが、年配の親族には快く思わない人もいる」という。
◇怖くても隠さず
イランでは22年の大規模デモ後、保守強硬派のライシ政権下でヘジャブを巡る取り締まりが強化された。ただ、ヘジャブ強制は革命体制指導部による抑圧の象徴と見なされ、自由を求める若者らを中心に女性の間で不満が募る。
黒髪をなびかせ友人と歩いていた大学生サバさん(22)は「正直言うと怖い。警察に拘束されたり殴打されたりする恐れもある」と明かす。それでも「好んで着用しないし、強制はうんざり」と意を決して脱いだという。市場で買い物をしていた高校生ガザルさん(15)も「警察がいなければ絶対にかぶらない」と言い切る。
決選投票に臨む改革派のペゼシュキアン元保健相(69)は「女性に服装を理由に嫌がらせをすることはできない」として、厳格な取り締まりには否定的だ。一方、保守強硬派のジャリリ元最高安全保障委員会事務局長(58)は、女性の尊厳と「社会的地位」を保証するには強制が必要との立場だ。
国民の間でも、着用強制への意見は分かれる。保守派を支持する人々はヘジャブ強制について「女性の美しさに魅了される男性から(女性自身を)守るためだ」と擁護する。これに対し大学教授のファテメさん(42)は「Tシャツと同じで、何が好きで着るかは自分で決める。その女性の気持ちと力を認めてほしい」と訴えた。
[時事通信社]
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