避難中に新たな命=「元気に育って」願う夫婦―離れ離れの半年・能登地震
能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県珠洲市の夫婦の元に6月、新たな命が誕生した。災害対応に当たる市職員の夫を残し、妻は約120キロ離れた町で避難生活を続けながら出産した。2人は「元気に育ってくれれば、それだけでいい」と喜びをかみしめる。
夫婦は藤部裕太さん(37)、巴さん(33)。地震の起きた元日、巴さんは長女ふみちゃん(5)と、同居の両親と共に、市外のショッピングモールに出掛けていた。珠洲市には大津波警報が出ていたため、車で3時間ほどの同県野々市市にある弟宅に身を寄せた。
2日に両親が珠洲市に戻ると、海の近くに建つ木造2階建ての自宅には津波の痕が色濃く残っていた。大量の海水が勝手口を突き破り、室内は泥まみれに。居間にあった仏壇は玄関まで流されていた。
「珠洲には帰れない」。被害状況を聞いた巴さんはそう思った。排せつ障害を抱えるふみちゃんには1日6回の導尿が必要だが、市全域で断水し、カテーテル洗浄に欠かせない水が使えない。おなかには授かって間もない赤ちゃんもいた。
一方、上下水道係で働く裕太さんは、地震直後から浄水場や配水管などの復旧作業に奔走。当初は家族の近況を写真共有アプリで知る日々が続いたが、復旧が進むにつれて休みを取れるようになり、週末は巴さんたちが暮らす野々市市内のみなし仮設に通う2拠点生活を送った。
夏日となった6月10日昼すぎ、元気な産声を上げて3424グラムの男の子が誕生した。夫婦で話し合い、「何が起きても強い子になってほしい」との思いを込め「麦(むぎ)」と名付けた。
巴さんは退院の際、出産までの避難生活を思い返し、自然と涙があふれた。「珠洲で過ごすよりは良かったかもしれない。けど、やっぱり大変だった」
自宅は中規模半壊の判定を受けた。余震は今も続く。それでも、インフラは徐々に回復し、少しずつ復興に向かっている。「麦の花言葉には『希望』という意味もあるんです」と巴さん。秋には2人の子どもと一緒に、裕太さんが待つ珠洲市に帰る予定だ。
[時事通信社]
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