進む仮設入居、不安抱え=遠い「ついの住み家」―能登地震
能登半島地震から半年がたち、仮設住宅への入居が本格化している。被災者は長い避難生活を終えた安堵(あんど)感の一方、自宅再建の見通しが立たない不安も抱く。仮住まいから「ついの住み家」への移行が復興の課題として浮かぶ。
◇4カ月半の避難終え
石川県輪島市深見町の谷政義さん(87)は5月中旬、市中心部にできたプレハブ仮設住宅での生活を始めた。地震で孤立集落となった深見町の54世帯114人は、約130キロ離れた同県小松市の粟津温泉に集団避難していた。
4カ月半ぶりに戻った輪島市での日課は、車で20分ほどの自宅に通うことだ。鳥のさえずりが響く集落で「やっぱりこっちに来たかったわい」と笑顔を見せる。妻ちよ子さん(88)と共に、日が傾くまで壊れた家の片付けや畑いじりをする。
だが、地区の状況は震災前とは一変した。水道復旧の見通しが立たず、土砂災害の危険もあるため、再び住めない可能性があるという。「見込みねえべ」。谷さんはそう言って顔を曇らせた。
深見町総区長の山下茂さん(74)によると、食事や衛生面の環境が整った粟津温泉でも、大半の住民は早く地元に戻ることを望んでいた。集落内での仮設住宅建設を市に要望したが、土地がなく断念。自宅に戻れない約半数が谷さんと同じ仮設住宅に落ち着いた。
◇入居長期化も
仮設住宅に移った被災者は、自宅を再建するか、自治体が建てる低家賃の災害公営住宅に入るかなどの検討を迫られる。家賃がかからない仮設住宅は「一時的な救助」とされ、入居は原則2年だ。
ただ、近年の災害では仮設暮らしが長期化するケースが多い。東日本大震災では災害公営住宅建設の遅れなどから、仮設入居者の約半数が震災5年後も住み続けていた。
長期の仮設暮らしは、高齢被災者の健康と再建への意欲をむしばむ。輪島市門前町の仮設住宅では5月、一人暮らしの70代女性が亡くなった。
災害後のまちづくりが専門の阿部晃成・宮城大特任助教によると、異なる地域から被災者が集まった仮設住宅では、時間の経過とともにリーダー役が次々と変わり、コミュニティーを形成しにくいという。
石川県は元のコミュニティーを維持できるよう、自宅敷地などに木造戸建ての仮設住宅を建てる「ふるさと回帰型(石川モデル)」を提案。そのまま災害公営住宅に転用できる仕組みで、被災者の期待も高かったが、能登地域での着工は6戸にとどまった。
まず家屋を解体する必要があり、輪島市は「一刻も早い避難所生活の解消が必要」との理由で採用しなかった。阿部特任助教は「仮設住宅と災害公営住宅は同時進行で考えなければならないが、どの自治体も仮設建設に手いっぱいで、できていない」と指摘する。
深見町の仮設入居者の多くは年金暮らしで、自力で自宅再建する余裕はない。山下さんは「ずっと住める場所が必要だ」と話し、集落内への災害公営住宅の早期建設を行政に働き掛ける考えだ。
[時事通信社]
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