岸田首相、デフレ脱却宣言に意欲=局面転換へ思惑、政権に賛否
岸田文雄首相が「デフレ脱却宣言」に意欲を見せている。自民党派閥の裏金事件を巡って政権への逆風がやまない中、成果を印象付けて局面転換を図る思惑からだ。政権内には宣言の環境は整いつつあるとの声がある一方、宣言後にデフレに戻れば打撃は計り知れないとの慎重論も根強い。
「経済、経済、経済と言ってきた。長年染み付いたデフレ心理を払拭し、賃金上昇が当たり前との方向に社会全体の意識を一気呵成(かせい)に変えなければならない」。首相は4月27日、連合のメーデー中央大会に出席し、こう声を張り上げた。
デフレからの完全脱却は首相が「政権の存在意義」とまで言い切る政策課題だ。「もはやデフレではない」が政府の現状認識だが、「デフレに再び戻る見込みがない」が政府の定義する脱却。日銀による3月のマイナス金利解除後、首相は記者会見で「いよいよデフレ脱却宣言かと言う方もいるが、いまだ道半ばだ」と踏み込まなかった。
政府が2006年以来、デフレ脱却の判断材料と位置付けてきたのが消費者物価指数や需給ギャップなどの4指標だ。林芳正官房長官はこれに加え、賃金上昇や価格転嫁の動向を「総合的に考慮し、慎重に判断する」と説明する。政府関係者は「ポイントは賃上げだ」と口をそろえる。
周辺によると、首相は4指標が改善基調にあり、賃上げも広がりつつあるとして、デフレ脱却宣言に意欲を示している。政府関係者は「政権の成果をアピールできる」と首相の狙いを説明。衆院3補欠選挙で示された政権批判を和らげたいとの計算ものぞく。
ただ、最近の物価上昇は円安の影響が大きい。賃上げの流れが中小企業などに行き渡っているとも言い難く、財務省幹部は「デフレ脱却を宣言しても、賃金の上がらない層から猛反発を受けるだけではないか」と懸念。閣僚経験者は「宣言後にデフレに戻るリスクもある」と指摘する。
政府内では宣言の時期として6月の定額減税の効果が出る今夏が取り沙汰され、首相が矢面に立つリスクを軽減するため、首相の言葉ではなく「月例経済報告」で宣言する案も浮上する。自民内からは「デフレ脱却など宣言しても政権は浮揚しない」(ベテラン)と冷ややかな声も漏れる。
[時事通信社]
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