救急待ちわび、無念の死=自宅に津波、残された97歳父―長男「助けさえあれば」・能登地震
能登半島地震では、救急搬送を待つ間に亡くなった人もいる。石川県珠洲市の向井宏さん(97)は津波に襲われた自宅で「寒い、寒い」と訴えながら息を引き取った。長男の星十さん(63)は「助けさえあれば」との考えが頭から離れない。
宏さんは約40年間、中学校の教諭を務め、珠洲市宝立町鵜飼に妻久枝さん(98)と2人で住んでいた。退職後も訪ねてくる教え子は絶えなかったという。
元日、星十さんは金沢市内の自宅で激しい揺れを感じた。足腰の弱った両親を案じて電話をかけたがつながらず、翌2日、車で珠洲市へ向かった。だが、市内に入るまでに約6時間を要した。その後はがれきに行く手を阻まれ、途中からは徒歩で向かった。
たどり着いた実家は津波をかぶり、1階の床は泥だらけだった。久枝さんは転倒して動けずにいたが、大事はなかった。一方、宏さんは1階仏間でぬれた布団の上に横たわり、「寒い、寒い」とうわ言のように繰り返していた。
「何とかしなければ」。星十さんは消防に助けを求めたが、「順番待ちだ」と告げられた。一人では父を担ぐこともできない。だが、街は混乱し、近隣住民の助力を得るのも難しい。結局、新しい布団を掛けて「頑張れ。もう少しだ」と励まし続けるしかなかった。
翌朝、宏さんは息を引き取った。「救助を待つことしかできなかった。父は諦めて仏壇の前にいたのかもしれない」。星十さんはそう振り返り、「考えても仕方がないが、『助けがあれば』とは今でも思う」と語る。「津波がここまで来るとは思いもしなかった。どう備えれば良かったのか」と自問し続けている。
[時事通信社]
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