2025-03-08 13:36

〔国際女性デー50年〕「美しすぎる」の先へ=スポーツ報道とジェンダー

サッカー女子W杯準々決勝、スウェーデン戦の前半、競り合う長谷川唯(右)=2023年8月、ニュージーランド・オークランド
サッカー女子W杯準々決勝、スウェーデン戦の前半、競り合う長谷川唯(右)=2023年8月、ニュージーランド・オークランド
 世界の舞台で躍動する女性アスリートの姿は、テレビ中継やニュースなどを通じて人々に届けられてきた。一方で、スポーツ報道にはジェンダーへの固定観念や偏見をはらむ表現が見られ、女子選手の活躍の場を制限しているとの指摘もある。
 ◇男子と女子、報道に差
 プロ野球や大相撲など、国内のスポーツ報道は男子競技に大きく偏っている。ジェンダーや性的マイノリティーの研究をする東京都立大の藤山新特任研究員によると、2023年6月下旬の1週間に放送されたスポーツ中継は地上波、BS放送とも男子のみの競技が半数以上。同年にはサッカーの女子ワールドカップ(W杯)で日本(なでしこジャパン)が8強入りしたが、なでしこ関連の年間報道時間はサッカー全体の12%にとどまり、男子A代表の約半分だった。藤山さんは「見るスポーツは男がやるもの、という意識が主流になっていることが背景にある」とみる。
 報道でアスリートに使われる表現にも、ジェンダーの差が表れている。ジェンダーとメディアの問題に詳しい愛知工科大の小林直美准教授の研究によると、21年東京五輪の日本選手に関する報道で、女子選手に対しては容姿に触れる内容が男子選手の3.8倍あり、中でも「美しさ」への言及は、女子選手に向けられたものが約90%に上った。女子選手には「○○ちゃん」と子供扱いするような愛称や、スポーツと無関係のプライバシーへの言及も目立つという。
 ◇ジェンダー平等、どう報じる
 国際オリンピック委員会(IOC)は21年に、ジェンダー平等に配慮した報道のためのガイドラインを発表。報道に表現の公平性やステレオタイプの回避を求めた。「美しすぎる」や「男らしい」などの性差別的な表現は改めるよう推奨。日本語版の作成に携わった元五輪競泳日本代表の井本直歩子さんは、「選手が競技内容ではなく容姿や振る舞いで注目されると、競技の本質が伝わらない。競技そのものを報じることが重要」と話す。
 報道のジェンダー平等を実現するために、メディアはどう変わるべきか。藤山さんは「『美女アスリート』記事の受けが良くても、今の時代はそうじゃないと、新しい価値観を提示する報道の方法もあっていい」と提唱する。伝える側の取り組みで、受け手の意識を変えることは可能と指摘。サッカー日本女子代表で長年活躍した近賀ゆかり選手(広島)は自身の経験も振り返り、「単純な男子と女子の比較ではなく、女子の世界トップレベルと比べるとか、正しい価値を伝えてもらえればいいなと思う」と語った。
 昨年のパリ五輪ではジェンダー平等が理念の一つに掲げられ、史上初めて男女の出場枠が同数となった。公平な環境が整いつつある中、報道の在り方も、その変化に追い付いていく必要がある。