天皇「お言葉」で事前調整か　９２年訪中、歴史問題巡り―外交文書

　１９９２年１０月の天皇陛下（現上皇さま）の中国訪問では、過去の歴史について「お言葉」でどこまで触れるかが焦点だった。２０日公開の外交文書で、日中両政府間の事前調整を示唆するやりとりが明らかになった。（肩書は当時）
　天皇は、１０月２３日に北京で開かれた楊尚昆国家主席主催の晩さん会で、日中戦争など過去の歴史に言及。「わが国が中国国民に対し多大の苦難を与えた不幸な一時期がありました。これは私の深く悲しみとするところであります」と述べた。
　外交文書によると、橋本恕駐中国大使はこれに先立つ２月、中国の外務次官（外交部副部長）と面会。お言葉について「中国やわが国でやっかいな議論が生じることを避けるため、原案が作成された後、あらかじめ中国側に非公式かつ極秘裏に提示し、意見を聞きたい」と伝えた。
　これに対し、外務次官は８月に橋本氏と面会した際、「お言葉は日本側で決める問題だが、（天皇）訪問の円満な成功のためには、非公式に事前の相談が必要と思う」との認識を示した。
　１９７２年の日中国交正常化交渉では、訪中した田中角栄首相が日中戦争について「多大のご迷惑をおかけした」と発言。表現が軽すぎると中国側の反発を招いた。橋本氏らの対応には、同様の事態を避ける思惑があったとみられる。
　外交文書には、お言葉を聞いた中国外務省幹部が「内容は素晴らしいもので、これまでの日本側指導者のスピーチの中で最も感動した」と好意的に反応した様子も記されていた。
　ただ、日中両政府間の詳細な交渉過程は、公開された外交文書に含まれていなかった。天皇が帰国後、楊氏に宛てた感謝を伝える手紙も公開されたが、黒塗りで具体的な内容は分からなかった。
　これに関し、９２年当時に中国公使を務めていた元外交官の槙田邦彦氏は取材に応じ、中国側からお言葉への要望が橋本氏に伝えられた可能性を指摘。その上で「お言葉のテキストをテーブルに置いて交渉することは絶対になかったと思う」と述べた。（2023/12/20-16:12）

Recently released Japanese diplomatic documents hint at the possibility of coordination between the Japanese and Chinese governments on a speech made by then Japanese Emperor Akihito on his trip to China in 1992.
   The biggest focus of the trip was on what he would say on the past history between Japan and China.
   At a banquet hosted by then Chinese President Yang Shangkun in Beijing on Oct. 23, 1992, the then Emperor said that he was greatly saddened by a woeful period when Japan caused tremendous suffering to the people of China, referring to past events such as the Second Sino-Japanese War from 1937.
   According to the documents released on Wednesday, then Japanese Ambassador to China Hiroshi Hashimoto met with a Chinese vice foreign minister at the time in February 1992, prior to the Emperor's trip.
   Hashimoto told the Chinese side at the time that the Japanese government planned to present the Chinese government with a draft of a speech beforehand in an informal setting behind closed doors, in order to avoid any cumbersome debate in Japan and China.