2025-06-18 21:48World eye

「何のための戦争?」 アラブ系イスラエル人、イラン攻撃で妻子亡くし嘆き

【タムラ(イスラエル)AFP=時事】イランとイスラエルが空爆の応酬を続ける中、イスラエル北部にあるアラブ系住民の多い町タムラは、その高い代償を払わされることになった。民家に弾道ミサイルが直撃し、4人が死亡。小さな町の暮らしは一変した。≪写真は、イスラエル北部のアラブ系住民が多くを占めるタムラで、イランのミサイル攻撃による犠牲者の葬儀に参列した人々≫
 17日、タムラの細い通りには大勢の住民が集まり、カラフルな花輪で飾られた木製のひつぎが町の墓地に運ばれるのを涙しながら見守った。
 今回のイランの攻撃により、イスラエルのアラブ系の少数民族とユダヤ人に対する保護の格差が浮き彫りにされたと指摘する人もいれば、戦争という非情さが改めて示された形にすぎないと考える人もいる。
 今回の攻撃で妻と2人の娘、そして義理の妹を亡くしたラジャ・カティブさんはAFPに、「自分にもミサイルが直撃していればよかった。そうすれば、娘たちと一緒にいられて、私も、もう苦しまずに済んだのに」と語った。
 「私から学んでほしい。もう犠牲者を出さないでほしい。戦争をやめてくれ」
 イランとの交戦が始まって5日間で、イスラエルでは、少なくとも24人が死亡、数百人が負傷している。
 イスラエルの高度な防空システムは、ミサイルや無人機の大多数を迎撃しているが、100%ではない。
 ミサイルの中には、列車の1車両ほどのサイズで、数百キロの重さがある弾頭を搭載したものもある。そんなイランの弾道ミサイルが1発でも当たれば、街区の一帯が破壊され、集合住宅はえぐられ、衝撃波で周囲の窓ガラスは割れ、周辺に甚大な被害を及ぼす。
 このようなミサイルによる被害は、2023年10月7日のイスラム組織ハマスによる越境攻撃以降、20か月以上戦争が続いているイスラエルでも前例のない規模だ。
 タムラの他にも、テルアビブやブネイブラク、ペタフティクバ、ハイファでも住宅地が攻撃を受けている。
 ■ユダヤ人との差別
 タムラでは17日、ひつぎが運ばれる中、遺族の女性1人が悲しみのあまり失神し、周囲の女性たちに介抱される様子も見られた。
 墓地では、男性たちが互いを抱き締め、用意されたばかりの墓穴の前で少女たちが泣いていた。
 イスラエルは、イランの核兵器取得を阻止するためとして突然、空爆作戦を実施。核兵器の開発を否定しているイランは、それ以降、連日、イスラエルを攻撃している。
 イランでは、イスラエルの広範な空爆により、軍司令官や幹部、核科学者、民間人を含め、少なくとも224人が死亡している。
 緊張緩和を求める声が高まる中、双方が攻撃をやめる気配はない。
 イスラエルでは、空襲警報がたびたび鳴り響き、市民はシェルター付近から離れず、通りは閑散とし、店舗も閉まっている。
 しかし、イスラエルのアラブ系少数派の中には、政府はアラブ系に対する保護対策を十分に講じておらず、利用できる公共の防空シェルターに関しても格差があると指摘する人々もいる。
 アラブ系少数派の大半は、1948年のイスラエル建国後も、現在のイスラエル領にとどまったパレスチナ人で、国民の約20%を占めている。
 こうしたアラブ系の人々は、多数派のユダヤ人からの差別をしばしば訴えている。
 「残念ながら、国はいまだに血と血で区別している」と、パレスチナ系のイスラエルの国会議員アイマン・オデー氏は、今週タムラを訪れた後にSNSに投稿した。
 「タムラは村ではない。町にもかかわらず、公共のシェルターがない」と続け、こうした防空体制の不備は、イスラエルの「地方自治体」の60%にみられると指摘した。イスラエルの地方自治体は、国に町として正式に認定されていない地域を指し、その多くがアラブ系のコミュニティーだ。
 妻子と義妹を亡くしたカティブさんのような住民にとって、アラブ系に対する被害はすでに取り返しのつかないものとなっている。
 「この戦争は一体何のために行われているんだ? 二つの民族のために平和を築こう」
 「私はムスリムだ。このミサイルで殺されたのはムスリムだ。ユダヤ人とムスリムをミサイルは見分けていただろうか? いや、そんなことはない。命中すれば、誰であろうと関係なく、ミサイルは人の命を奪う」とカティブさんは訴えた。【翻訳編集AFPBBNews】

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