2023-04-28 17:05World eye

インド家族計画 女性に重くのしかかる負担

【ブードバラル(インド)AFP=時事】インド北部ウッタルプラデシュ州郊外の村ブードバラル。診療所の手術室から時々、叫び声が聞こえてくる。中では、麻酔が効いた状態のカージャルさん(25)が、卵管をふさぐ卵管結紮(けっさつ)術が終わるのを待っている。≪写真はインド北部ウッタルプラデシュ州郊外の村ブードバラルにある診療所で不妊手術を受けるために待つ女性ら。≫
 インドでは長らく、人口抑制の方法として卵管結紮術が好まれてきた。手術時間は50分ほど。診療所の外では、色とりどりの布で頭部を覆った女性たちが、手術を受けようと列をなしていた。
 国連人口基金は19日、今年半ばにインドの人口が中国を抜き、世界最多になるとの推計を発表した。
 各国が人口抑制策を打ち出すよりもはるか前の1952年、インド政府は国家政策として人口抑制の取り組みを始めた。
 それから数十年でピルやコンドームが避妊方法として普及したが、70年代には男性に強制的不妊処置が行われるようになった。その後、人口抑制策を行う対象は女性へと移行し、卵管結紮術が主流となった。
 男性の避妊方法として低侵襲の精管切除術があるにもかかわらず、女性は政府の医療従事者から卵管結紮術を受けるよう説得されることが多い。手術に同意すると約25ドル(約3300円)が支給されることもある。
 カージャルさんと工場勤務の夫ディーパックさんには既に3人の子どもがいる。生活が苦しいため、卵管結紮術を受けることを決めた。
 ディーパックさんは「自分が(男性として)弱くなってしまう」と思い、精管切除術を選ばなかった。
 ■男らしさにまつわる神話
 インド人口財団のプーナム・ムットレジャ事務局長は、ディーパックさんが再建可能で、10分で終わる精管切除術を不安視するのは、いまだ「家父長制の極めて強い社会」においては一般的だと指摘する。
 ムットレジャ氏はAFPの取材に対し「(精管切除術をすれば)男性が男らしさを失うという神話を男女ともに信じている」「科学的根拠のない迷信だが、ある種の信仰となっている。市民にとっては信仰が現実だ」と語った。
 ブードバラルの診療所では、昨年4月から今年3月にかけて180人以上の女性に不妊手術を施した。一方、同様の処置を受けた男性はわずか6人にとどまる。
 診療所の医療責任者アシーシュ・ガルグ医師は「精管切除術はメスを使わないが、男性を性的不能にすると誤解されており、タブーになっている」と述べた。
 ■危険な施術
 卵管結紮術を提供する簡易診療所は、特に人口の3分の2が住む広大な農村地域では一般的なものとなっている。
 通常は安全な施術だが、インドではそうと限らない。
 南部テランガナ州では昨年、卵管結紮術を受けた女性のうち4人が死亡、9人が病院に搬送された。
 2014年には、中部チャッティスガル州の簡易診療所で手術を受けた少なくとも11人が亡くなっている。
 ムットレジャ氏は、政府は人口抑制を推進するならやるべきことがあると指摘する。より多くの男性に不妊手術を受けてもらうためには、啓発活動が必要だと訴えた。
 「これは魔法の薬だ。保健教育に投資していれば、家庭や国家の経済的負担を減らせたはずだ」
 一方、地元住民のハルビール・シンさん(64)は、精管切除術は男性が仕事や家族を養うのに必要な「強さ」を奪うものだと今も信じている。
 「男は外に出て稼がなくてはならない。女は食事を作って家にいるものだ」「男なしではどうするんだ?」と述べた。【翻訳編集AFPBBNews】

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