「一帯一路」高速鉄道、タイ部分は大幅遅れ 対中深入りへの警戒も
【ナコンラチャシマ(タイ)AFP=時事】タイの首都バンコクからラオスを縦断し中国・雲南省昆明市まで結ぶ高速鉄道計画のタイ国内部分の工事が、大幅に遅れている。中国の「一帯一路」構想の一部を成すものだが、歴史的建造物が壊されることへの批判や、完成すれば対中関係が強まりすぎるのではないかとの警戒感も広がっている。≪写真はタイ・ナコンラチャシマのスンヌン駅に入って来た列車。≫
タイの貧困地域イサーン(東北部)。青々とした田んぼに、コンクリート製の支柱が立ち並んでいた。
2010年に打ち出された高速鉄道のタイ国内部分は総延長約600キロ、総工費は54億ドル(約7200億円)相当に上る。プラユット・チャンオーチャー首相は、開通すれば対中貿易の拡大を通じて経済が活発化すると期待を示している。
完成した暁には、バンコクと、ラオスとの国境の町ノンカイの間で中国製列車が最高時速250キロで運行される予定だ。
バンコクから車で1時間半、普通列車で5時間かかるナコンラチャシマには、解体予定の古い駅の一つがある。
ラマ5世により1900年に開設された駅は老朽化し、古ぼけた木製ベンチの下に犬が寝そべっていた。壁には、高速鉄道での素晴らしい旅をうたうカラフルなポスターが貼られている。
タイ国有鉄道はこの駅を取り壊した後、ガラスと鋼鉄製の16倍の規模の駅舎に建て替える予定だ。
歴史ある、王室ゆかりの建物を解体することには地元から反対の声も上がっている。
タイ建築家協会のイサーン地域担当者、ウィーラポン・ジョンジャルーンジャイ氏はAFPに対し、「高速鉄道計画に反対しているわけではなく、古いものと新しいものとの共存を願っている」と話した。
ウィーラポン氏は、現在の駅舎を数メートル移動させ、観光スポットにすることを提案している。新しい駅と並び建つ形になる。駅舎の解体工事は今年初めに始まる予定だったが、ウィーラポン氏ら活動家は、何とか延期させることに成功した。
■「タイ政府が乗り気ではない表れ」
タイ政府が2010年にプロジェクトを発表して以降、計画は何度も遅れている。
軍政を敷くプラユット首相は中国との関係強化を推し進めており、米中両国の間でバランスを取る外交方針を撤回するのではないかとの懸念が広がっていた。
プラユット氏は最終的に、プロジェクト費用についてはタイ側が全額負担し、技術に関しては中国側のアドバイスを受け入れることを決めた。
タイと米中との関係についての著作があるベンジャミン・ザワッキ氏は、高速鉄道計画の相次ぐ遅れは、タイ政府が「一帯一路」構想への深入りを警戒していることを示していると指摘する。
「ここまで時間がかかっているのは、タイ政府が高速鉄道計画にそれほど乗り気ではないことの表れだ」
一方、ラオス国内部分は2021年に開通。首都ビエンチャンと、中国との国境の町ボーテンを結ぶ路線だ。費用に関しては中国が7割を負担、ラオス負担分の大半は中国の銀行からの融資で賄われた。
バンコクのチュラロンコン大学経済学部のスティパン・ジラーティワット教授は高速鉄道のタイ国内部分について、計画の遅れのおかげで中国ではなくタイのプロジェクトになっていると指摘する。
「これは今や、中国の協力を得て進められているタイのプロジェクトだ。われわれの資金で、わが国の土地で行われている」。教授は、中国は聖書に登場する巨人ゴリアテ、タイはダビデだとし、「ダビデは立ち向かわなければならない」と語った。【翻訳編集AFPBBNews】
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