2023-02-01 13:08World eye

ナチスから逃れる際に売却されたピカソ、返還求め米美術館を提訴

【ニューヨークAFP=時事】ドイツ系ユダヤ人夫婦の子孫がこのほど、米ニューヨークのグッゲンハイム美術館に対し、1938年にナチス・ドイツから逃れるために夫婦が売却した絵画の返還を求め提訴した。≪写真はグッゲンハイム美術館≫
 問題の絵は1904年にピカソが描いた油彩画「アイロンをかける女」。78年から同美術館に展示されている。所有権を主張している夫婦のひ孫、トーマス・ベニグソン氏らによると推定1億~2億ドル(130億~260億円)の価値がある。
 マンハッタンの裁判所に提出された訴状によると、絵は1916年に皮革製造会社を経営していたカール・アドラー氏が、独ミュンヘンのユダヤ人画廊経営者ハインリッヒ・タンハウザー氏から購入した。当時アドラー夫婦は独南西部バーデンバーデンで「裕福な」暮らしをしていた。
 だが、1933年のナチスの政権掌握とともにユダヤ人は迫害され、アドラー夫婦も事業と資産を失った。夫婦は38年6月にドイツを脱出するとオランダやフランス、スイスで暮らしながら、アルゼンチンから永住ビザ(査証)が発給されるのを待った。
 アドラー夫婦は1938年10月、欧州諸国への短期ビザを取得するため、ドイツから仏パリへ渡っていたタンハウザー氏の息子ユスティン氏に「アイロンをかける女」を1552ドル(現在の価値で約400万円)で売った。6年前の査定額のわずか9分の1だった。
 今回訴え出ているベニグソン氏らはこれを不当な売買だったとし、「タンハウザー氏はアドラー家の窮状をよく知っていた。ナチスの迫害がなければ、このような値段で絵が売られることはなかったはずだ」と主張している。
 ユスティン・タンハウザー氏は1976年に死去。故人の遺志で「アイロンをかける女」を含む美術品コレクションはグッゲンハイム美術館に寄贈された。
 ベニグソン氏は遠い親戚や複数のユダヤ人組織などと共に、2016年に米国で制定されたホロコースト収用美術品回収法に基づき訴えを起こした。
 グッゲンハイム美術館側は、返還要求を「極めて真剣に」受け止めているが、アドラー家からタンハウザー氏への売却は「ナチス・ドイツ外」で行われた「公正な取引」だと主張。同美術館が現在の「正当な所有者」だと述べている。【翻訳編集AFPBBNews】

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