2022-08-08 13:51World eye

1本の木から300種、マンゴーの父 インド

【マリハバードAFP=時事】インド北部ウッタルプラデシュ州の小さな町マリハバード。カリーム・ウッラー・カーンさん(82)は毎朝、夜明けと共に起きて祈りをささげると、樹齢120年のマンゴーの木まで約1.5キロの道のりをゆったりした足取りで歩いて行く。カーンさんは、この木から300種以上のマンゴーを生み出すことに成功した。≪写真はインド北部マリハバードのマンゴー園で、接ぎ木のやり方を見せるカリーム・ウッラー・カーンさん≫
 マンゴーの木に近づくにつれ、カーンさんの足取りは速くなる。眼鏡越しに枝を見つめる目は輝きを増す。葉を優しくなで、実の香りを吸い込み、熟しているかどうか調べる。
 「この木は何十年も焼けるような日差しの下で懸命に働いてきた私への御褒美だ」と、カーンさんは自身のマンゴー園で語る。
 「一見、単なる木にすぎない。しかし、心の目を通じて見ると、木であり、果樹園であり、世界最大のマンゴーの集まりでもある」
 学校を中退したカーンさんが、マンゴーの新種を作るため、接ぎ木を試み始めたのはまだ10代の時だった。
 1本の木から七つの新種を実らせたが、嵐で木が倒れてしまった。
 しかし、この木は1987年以降、味や食感、色やサイズが異なる300種類のマンゴーを生み出してきた。樹齢120年の木が、今ではカーンさんの誇りと喜びの源となっている。
 カーンさんは初期の品種の一つを、インド映画界「ボリウッド」のスター、アイシュワリヤー・ラーイ・バッチャンにちなみ「アイシュワリヤー」と名付けた。アイシュワリヤーは今でも「最高傑作」の一つだ。
 「アイシュワリヤー種は、本人と同じくらい美しい。1個の重さは1キロ以上あり、皮は赤い色味があり、とても甘い」
 カーンさんのマンゴーの品種には、インドのナレンドラ・モディ首相やクリケット選手サチン・テンドルカールさんにちなんだものもある。

■マンゴーは指紋と同じ
 カーンさんの大切な原木は、高さ9メートル。頑丈な幹から広がる太い枝が、夏の日差しの中、心地よい木陰をつくっている。
 さまざまな質感と香りのする葉がパッチワークを織りなす。黄色く輝くものもあれば、深緑色のものもある。
 「同じ指紋の人がいないように、マンゴーも同じものはない。自然はマンゴーに、人間と同じような特徴を授けた」とカーンさんは述べた。
 カーンさんの接ぎ木の技術は複雑だ。一つの品種の枝に丁寧に切断面を作り、そこに別の品種の枝をつなぎ合わせ、テープで固定する。「接いだ部分がしっかりとくっついたら、テープを外す。うまくいけば、この新しい枝は次のシーズンには準備が整い、2年後に新種が実る」
 カーンさんは何度も賞を獲得している。2008年には、インドで民間人に与えられる最高位の賞を受賞した他、イランやアラブ首長国連邦(UAE)にも招待された。
 「私なら、砂漠でだってマンゴーを育てられる」とカーンさんは言った。

■気候変動の脅威
 インドは世界の生産量の半分を占める世界最大のマンゴー生産国。マリハバードには3万ヘクタールを超えるマンゴー園があり、国内生産の25%近くはこの町のものだ。
 しかし、マンゴー農家らは気候変動に直面している。マンゴー生産者団体(AIMGA)によると、今年の熱波で収穫物の9割がダメになってしまった。
 マンゴーの品種自体も減少している。カーンさんは、集約農業化や安価な肥料と殺虫剤が普及したためだと指摘する。生産者がマンゴーの木を密集して植えているため隙間がなく、葉に水分や露が付かないことも一因だという。
 だが、カーンさんはいい人生を送っていると話す。
 「最愛の木の近くに住むため、最近マンゴー農園の中の新しい家に移った。死ぬまで働き続けたい」【翻訳編集AFPBBNews】

最新動画

最新ニュース

写真特集