2022-07-22 13:21World eye

【解説】米の高機動ロケット砲、ウクライナで軍事バランスに影響も 専門家

【AFP=時事】米国がウクライナに供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース(HIMARS)」がウクライナとロシアの軍事バランスに影響を与え、ロシア側は攻撃の一時停止を余儀なくされる可能性があるとの見方が軍事専門家の間で出ている≪写真は米軍のM142高機動ロケット砲システム「ハイマース」。資料写真≫
 ウクライナ軍は6月中旬以降、ハイマースを実戦投入し、従来の砲撃システムでは射程外だったロシア軍の弾薬貯蔵庫や司令拠点20か所以上を破壊した。
 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「占領者(ロシア)は最新の大砲がどのようなものか感じ取ったはずだ。われわれの領土のどこにも、相手側にとって安全な後方部は存在しない」と述べた。
 ただ専門家は、ハイマースは万能薬ではなく、ロシア軍を敗北に追い込むためにはさらなる兵器やレーダー装置を組み合わせて使う必要があると指摘する。
 米首都ワシントンに拠点を置くシンクタンク、新アメリカ安全保障センターの防衛アナリスト、クリストファー・ドハティ氏は、ハイマースは想定通りの戦果を上げているものの、「それだけでは形勢を一変させるものではない」と解説する。

■命中精度で有利に

 ハイマースは、機動性の高い車両に据え付けられた発射装置で、227ミリのGPS誘導ロケット弾の射程は約80キロ。ウクライナ、ロシア両軍が使う他の多連装ロケット砲に比べて、ロケット弾を標的により正確に命中させることができる。
 一度に搭載可能なロケット弾は6発。ウクライナには6月に最初の4基が供与され、数百発のロケット弾も引き渡された。
 命中精度以外の利点もある。ロケット弾は、低空を高速で飛行するため、ロシアの防空システムは容易には迎撃できない。機動性が高いため、ロシア軍にとっては発見して攻撃するのも困難だ。
 オーストラリア軍退役少将で軍事アナリストのミック・ライアン氏は先週ツイッターで、「ハイマースはウクライナにおける戦闘の性質を変えつつある。ウクライナ側は従来よりも遠方の地点や、ロシアの防空システムの存在により狙えなかった場所を標的にすることが可能になっている」との見方を示した。
 ハイマースだけではない。ウクライナ軍は6月以降、フランスからカエサル155ミリ自走榴弾(りゅうだん)砲を供与されたのをはじめ、同盟国から命中精度の高い強力な大砲を入手。さらに米政権は今月、標的への精度がより高い新型の砲弾1000発を供与すると発表した。
 ライアン氏は、ウクライナ軍が新兵器を用いて、鉄道に近い施設や前線に比較的近い町に弾薬を貯蔵する傾向があるロシア軍の弱点を突いているとみている。ウクライナ側にとっては、人口密集地域を攻撃するリスクがあるとはいえ、命中精度が高いため人的被害は抑えられているとみられる。
 ドハティ氏は、ロシア軍がハイマースへの対策を講じていなかったことは驚きだったとし、「ロシア側が前線の明らかな問題に関して対処が極めて遅いという新たな実例だ」と述べた。

■トラック不足のロシア軍

 ロシア軍も今後、貯蔵施設を分散させたり、前線からより離れた場所に移動させたりして事態に対処すると専門家は解説するが、兵たんはより困難になるとみられる。
 ドハティ氏は「何か物資を送るたびに、必要とする人々に同じ量を届けるのにも、より多くのトラックが必要になる」と分析する。ロシア軍が保有するトラックは侵攻開始後に大幅に減少した。
 英スコットランドのセントアンドルーズ大学のフィリップス・オブライエン教授(戦略研究)は、ハイマースはそれ自体の能力にとどまらず、ロシア軍の兵たんを破壊し、防空網に対抗するための広範な戦略の一部になると指摘する。

■射程のより長いミサイルの供与要請

 ウクライナ政府は、ハイマースを使って発射可能な射程300キロの地対地ミサイル「ATACMS(エータクムス)」を供与するよう米政権に対して強く求めている。だがジョー・バイデン政権は、ウクライナがロシア国内の標的に使用すれば、米国や北大西洋条約機構(NATO)がロシアとの戦争に直接巻き込まれる恐れがあるとして、要請に応じていない。
 オブライエン教授は、ウクライナにはハイマースに加え、ロシア軍の空からの攻撃に対する防衛力が必要との見方を示した。「ウクライナに射程の長い兵器を供与するのと同じくらいに、より効果的な防空能力を与えることも最優先課題とすべきだ」とツイッターに投稿した。【翻訳編集AFPBBNews】

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