2021-09-06 16:20World eye

さまよう野生ゾウ 共生探る中国の村

【景洪市AFP=時事】中国南西部で育った馬明亮さん(42)が子どもの頃は、野生のゾウと遭遇することなどめったになかった。何世紀にもわたる狩猟や森林伐採で、ほぼいなくなっていたからだ。しかし今では村長として、ゾウを寄せ付けないために自分の村をバリケードで囲んでいる。≪写真は中国雲南省にあるアジアゾウ繁殖・保護センターで餌を探すゾウ≫
 さまようアジアゾウの群れが1年以上にわたって、中国の関心を集めている。群れは生息地の雲南省を離れ、農地や都市を抜けて数百キロも移動している。
 この14頭の本来の縄張りは、ミャンマーやラオスと国境を接する雲南省南端の亜熱帯に位置する西双版納タイ族自治州だ。中国で個体数が回復しているゾウが集中する地域だが、生息地は狭まる一方で、住民がゾウを見かけることが多くなった。その分、人間との衝突も増えている。
 馬さんの村、香烟●(●=たけかんむりに青の旧字)ではゾウとの緊張関係が明らかだ。
 なだらかな丘にこぢんまりとした家が並ぶ村には、ところどころに人とゾウの「調和」を奨励する看板が掲げられているが、周囲のジャングルとは鉄柵で隔てられている。
 住民の多くがゴムの樹液採取で生計を立てている村の入り口は夜間、大きな鉄門で閉ざされ、餌を求めるゾウの進入を防いでいる。

■「昔は調和が取れていた」
 それでも時々ゾウが入り込んでは、果実や野菜を奪っていく。ゾウが立ち去るまで、村民は外出禁止だ。「昔は調和が取れていたんですが、今では対立です」と馬さんは語る。皮肉なことに、保護策の成功があだとなった一面がある。
 インドから東南アジアに分布するアジアゾウは、中国国内でほぼいなくなっていた。1980年代には、西双版納の個体数はわずか150頭前後まで減った。
 自然保護活動家によれば、1988年にゾウ狩りが禁止され、分散しているゾウ保護区の徹底的な保全で事態が好転したという。
 天敵の不在にも助けられ、個体数は300頭以上に倍増し、さらに増加中だ。「私が子どもだった頃と比べて、今は群れの中に子ゾウが多いです」と馬さん。
 ゾウの体重は最大4トン程度で、1頭で1日当たり200キロもの餌が必要だ。その食欲を満たすため、地元の農地が頻繁に荒らされるようになっている。ゾウによる経済的損失は年間で推計2000万元(約3億4000万円)に上ると言う。
 ゾウの保護政策に携わる北京師範大学の張立教授(保全生物学)は、同自治州での保険金請求の最大の理由はゾウによる農作物や家屋の被害だと話す。
 また張氏によると、2013年から2019年にかけて少なくとも41人の命がゾウによって奪われた。負傷者はさらに多い。子ゾウを守ろうとする母親ゾウや、群れから孤立した気の荒い若い雄による襲撃が典型的で、現場は凄惨(せいさん)なありさまとなる。

■失われる生息地
 18か月間さまよい続けた後、現在本来の生息地の方向に進んでいる14頭のゾウを、中国共産党メディアは保護政策成功の愛すべきシンボルとして描いている。しかし、国内の科学者らは、生息地の減少が問題の一端だと言う。
 中国当局は、安全への対応を迫られてきた。
 2019年、西双版納に定点観測用カメラを使った数百平方キロのハイテク監視網が設置された。ゾウが現れると指令センターに通報され、各地域に警告が発信される。
 住民の心得は、屋内や階上へ避難すること、ゾウに近づかないこと、爆竹で追い払わないことなどだ。
 西双版納のいたるところで目に付くのは、身近に住むゾウをたたえる像や絵だが、ゾウと十分な距離を取るよう注意書きもある。
 村民たちは状況に順応している。
 陸正栄さんの住む農業集落は何十年にもわたって、米や穀物を作ってきた。だが「野生のゾウが手に負えなくなり増えすぎたため、茶葉やゴムの木などゾウが食べないものの栽培に切り替えました」と言う。
 だが、それがまた生息地の減少に拍車をかけると張教授は指摘する。
 茶やゴムの需要が急増し、農園は従来ゾウが歩き回っていた土地にまで着々と広がっている。ゾウは国に保護されていないそうした場所から、孤立した狭い保護区内に押し込まれていった。
 当然、ゾウはさまよいだした。

■「ゾウと人間とのバランス」
 なぜ14頭が北へ大移動したのかは、いまだに謎だ。
 張教授は「生息地の喪失や分断が根本的な原因」だろうと語る。個体数の増加による餌の奪い合いも状況を悪化させている。気候変動で生息地がさらに縮小すれば、もっと深刻化するだろう。
 中国政府は新たな国立公園制度を策定し、パンダやトラなど主要な野生動物の生息地保護を強化する方針だ。
 科学者らは西双版納にゾウの国立公園を設ける提案をしたが、大きな壁に直面している。
 そうした公園を造ろうとすれば、まばらな生息地をつなげるために農地をつぶし、数十万人の住民を移住させるという、巨額の費用がかかり政治的にも難しい大仕事が必要となる。
 解決策がもたらされるまで、住民はゾウとともに生きなければならない。「私たちがそれを望んでいるとは言えません」と陸さん。「でも、この動物と人間とのバランスが必要です。ゾウを守らなければいけません」【翻訳編集AFPBBNews】

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