2020-08-05 11:37World eye

地下の団結、地上の分裂…チリ鉱山落盤事故から10年

【コピアポAFP=時事】今から10年前、南米チリ・アタカマ砂漠の地下に2か月以上にわたって閉じ込められ、生還した鉱山労働者33人は連帯と希望のシンボルとなった。≪写真は10年前、チリ北部サンホセ鉱山で起きた落盤事故で閉じ込められ、69日間の地下生活から生還したジミー・サンチェスさん。チリ・コピアポにあるシェアハウスで≫
 奇跡の脱出として世界中のメディアの注目を集めた33人は今、トラウマや病気に悩まされたり、嫉妬や苦い思いによって分裂したりしている。
 2010年8月5日、昼食の直後だった。チリ北部のサンホセ鉱山で落盤事故が発生。当時19~63歳だった労働者33人が閉じ込められた。
 操業開始から約1世紀たつ古い鉱山の最下層、地下600メートルで生きていた彼らを見つけ出すまでに17日間かかった。しかしそこから彼らを救出するには、さらに52日間かかった。細い穴を通って無事引き揚げられる労働者たちを、世界中の人々がテレビで見守った。
 危機と飢餓を強い連帯感で乗り越えた鉱山労働者たちはたたえられ、英雄とあがめられた。無償の旅行を提供されたり、チリの実業家からそれぞれ1万ドル(約110万円)を贈られたりした。米ハリウッドでは俳優アントニオ・バンデラスさんの主演で、『チリ33人 希望の軌跡』として映画化された。
 だが、AFPが今回インタビューしたうちの何人かは、そうした幸福な時間は長くは続かなかったと振り返った。この10年、それぞれたどってきた道は違うが、一つだけ共有しているものがあった。それは「苦い思い」だ。

■悪夢
 ホセ・オヘダさんは、「希望の声」だった。8月22日、掘削ドリルに付けたメモを介して、労働者らが生きていることを地上に初めて伝えたのは彼のメッセージだった。
 現在57歳になるオヘダさんは糖尿病が進行し、松葉づえの助けを借りないと歩けない。今も「悪夢を見たり、不眠がちだったりする」という。
 オヘダさんはアタカマ州の州都コピアポで妻と娘1人と、月約320ドル(約3万4000円)の年金で暮らしている。だが、医療が大幅に民営化され、労働者階級の多くに届かないチリで治療費を払うには足りない。「みんな、私たちが大金をもらったと思ったようだが、そんなことはない」
 8年間の法廷闘争の後、チリ政府は鉱山労働者1人当たり11万ドル(約1170万円)を支払うよう命じられ、サンエステバン鉱山会社に責任はないと判断された。しかし政府は、33人のうち14人は年齢や健康を理由にすでにさまざまな財源から終身年金を受けていると主張して控訴した。この裁判はいまだ決着がついていない。

■トラウマ
 高校を中退し、19歳で働き始めたジミー・サンチェスさん(29)は最年少だった。「まるで昨日のことのようだ。忘れられないと思う」。事故以降、鉱山用のヘルメットは二度とかぶっていないが、仕事を見つけるのにずっと苦労している。「職探しに行っても、僕が誰か分かると、目の前のドアが閉ざされてしまう。(坑道に)閉じ込められたのは、僕のせいではないのに」と嘆く。
 生還した鉱山労働者らを支援してきた心理学者のアルベルト・イトゥラ氏によると、33人については、雇用者側が再び鉱山の仕事をさせたがらないのだという。鉱山会社の上役らは、彼らが「急に休暇を願い出たり仕事をやめたりして、ストレスに対処できないと考えている」という。
 サンチェスさんは精神衛生上の理由から、仕事の再開は難しいと宣告された。収入は年金に頼り、妻と2人の子どもを連れて、20人が一緒に住む家に暮らしている。

■金銭、脚光、嫉妬
 長い地下生活の間、世界が目にした鉱山内部からの映像によく登場したのが、マリオ・セプルベダさん(49)だ。ハリウッド映画でアントニオ・バンデラスさんが演じたのが彼の役だ。
 セプルベダさんは首都サンティアゴ近郊に住み、講演者として各地を旅するなど他の仲間よりも暮らしぶりはいい。昨年はテレビのサバイバル・リアリティーショーで優勝し、賞金約15万ドル(約1600万円)で自閉症児のための施設をつくった。
 落盤によって閉じ込められた直後、それまでほとんど互いを知らなかった労働者たちは即座に団結した。まず中に残った全員の名簿を作り、わずかしかない食料を配給で分け合った。気温35度、湿度も高い暗闇の中、発見されるまでの最初の17日間は全員、2日ごとにスプーン2杯の缶詰めのツナとグラス半分のミルクを口にするだけでしのいだ。
 「地下での時間は素晴らしかった。みんなで歌い、夢を語り、物事は民主的に決定し、誰もやけは起こさなかった」とセプルベダさん。だが、地上に戻るとその団結は解消されてしまった。「それぞれの家族が、僕たちの間に分裂を引き起こした」
 一方、最年少のサンチェスさんによると、分裂の原因は金銭だ。映画化や書籍化に関わった弁護士たちが、権利を譲渡させるために「僕たちを分断する」戦略を使ったのだという。
 セプルベダさんやベテラン鉱員の一人だったオマル・レイガダスさん(67)のように、体験を語ることで今も脚光を浴びている何人かは、「33人クラブ」の中で嫉妬の対象になっている。「金のことばかり気にして、僕たちが経験した全てを忘れてしまった人たちがいるんだ」とサンチェスさんはいう。
 アタカマの33人の鉱山労働者が再び一堂に会することはない。大半の仲間は無名の日々の暮らしに戻っている。
 一方、世界中を旅し、ハリウッドのスターたちと会う瞬間も楽しんだセプルベダさんは、それら全ての経験と交換してでも鉱山へ戻りたいという。「もう一度シフトに入って、同僚やシフトマネジャーと一緒に鉱山の入り口に立ちたい。それが夢なんだ」「鉱山へ戻って自分の経験をささげたい。採掘が好きだし、鉱山労働者という仕事が好きなんだ」【翻訳編集AFPBBNews】

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