2019-07-22 11:42World eye

アポロ計画の英雄で元ナチス親衛隊員、娘が語る「ロケットの父」

【ハンツビルAFP=時事】人類を月に送り込むアポロ計画でロケット開発を担当した科学者のベルナー・フォン・ブラウン氏は、元ナチス親衛隊の隊員で、第2次世界大戦中、連合国側に多大なる犠牲をもたらしたV2ロケットの生みの親でもある──。≪写真はロケット科学者ベルナー・フォン・ブラウン氏の次女マルグリッド・フォン・ブラウンさん。米アラバマ州ハンツビルの宇宙ロケットセンターにて≫
 アポロ計画への貢献で英雄とたたえられたフォン・ブラウン氏だったが、子どもたちにとってはただの「父親」だった。同氏の次女マルグリッド・フォン・ブラウンさんはそう語る。
 大戦後、西側諸国と旧ソ連はドイツ第三帝国の優秀な研究者を取り込もうと先を争っていた。フォン・ブラウン氏は、未使用のV2ロケットを渡すことを約束しただけでなく、大量の書類を持ち出し、同氏の下で働いていた100人近いトップレベルの科学者や技術者を引き連れて米国に亡命した。
 フォン・ブラウン氏らは1945年9月、テキサス州に連れてこられた。その後、1950年にアラバマ州の小さな農村に過ぎなかったハンツビルへと移された。軍はこの地にあった武器庫をミサイル開発センターに改変した。
 マルグリッドさんは1952年にハンツビルで生まれた。その8年後、ミサイルセンターは米航空宇宙局(NASA)に生まれ変わった。そして、フォン・ブラウン氏はNASAのマーシャル宇宙飛行センターの初代長官に就任している。
 今回、アポロ11号の月面着陸から50年の記念式典に出席するためハンツビルに帰郷していたマルグリッドさんは、AFPの取材に応じ、「極めて普通の子ども時代を送った」と当時を振り返った。
 ハンツビルにはドイツ人の家族が数多く暮していた。彼らは家でドイツ語と英語を話したとされ、マルグリッドさんもバイリンガルだ。しかし、自身をドイツ系米国人だと考えたことはなく、「自分は米国人だとずっと思ってきた」と語った。
 ■月の次は火星に
 マルグリッドさんは学業のためハンツビルを離れ、ここ42年はアイダホ州に住んでいる。州立大学で環境工学を教えている他、NPO「テラグラフィックス」を共同で設立し、環境汚染による健康被害を防ぐ活動に取り組んでいる。
 「父は明らかに地球の外に興味を持ち、他の惑星に行きたがっていたが、私の興味は地球にある」とマルグリッドさんは言う。
 そして、フロリダ州にあるケネディ宇宙センターから、サターンV型ロケットが打ち上げられた際の父親の反応を今も覚えているとしながら、「翌日には火星に行くことを話していた」と付け加えた。
 ■ナチス親衛隊隊員
 フォン・ブラウン氏は人類を月以外の宇宙空間に送り込むという夢に熱中していたが、触れてはいけない話題がひとつあった――戦争だ。
 フォン・ブラウン氏は1937年にナチス・ドイツに入党し、科学者としてV2開発プログラムを率いた。ナチス親衛隊の隊員でもあった。そして、戦争が終わりに近づくと、アドルフ・ヒトラーは英ロンドンとベルギーのアントワープに向けて世界初の誘導式長距離弾道ミサイルであるV2を発射。市民や軍人数千人の命を奪った。
 フォン・ブラウン氏の功績については、歴史家の間でも意見が分かれている。戦争犯罪人と呼ぶ学者がいる一方で、当時の全体主義政府に従うしかほとんど道は残されていなかったと見る人もいる。
 「戦争中の出来事を解明するのは非常に困難だ」「何かを依頼されたら断るわけにはいかなかった」とマルグリッドさんは述べ、「民主主義国家の米国に暮らす私たちのように選択肢を持っていたとは思えない」と指摘する。
 「米国人はロケット科学者を採用し、そのロケット科学者が米国の月面着陸を助けた。そのような位置づけがより正確だと考える」とマルグリッドさんは不快な様子を少しも見せずに話した。【翻訳編集AFPBBNews】

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