信頼失墜、前代未聞=揺らぐ「資産運用立国」―東証インサイダー
東京証券取引所社員によるインサイダー取引疑惑が浮上した。公正性が何より求められる情報開示部門での不正に、東証では23日、「前代未聞の事態だ」(幹部)と戸惑いが広がった。企業の未公開情報を巡っては、金融庁に出向中の裁判官によるインサイダー疑惑が明らかになったばかり。市場への信頼は失墜し、政府が進める「資産運用立国」構想も揺らぎかねない。
「関係者に多大な迷惑と心配をおかけし、おわび申し上げる」。東証を傘下に置く日本取引所グループ(JPX)は23日朝、社員のインサイダー疑惑についてコメントを発表。別の幹部は「疑惑が事実なら論外」と肩を落とした。
関係者によると、東証で上場企業の重要情報開示に携わる社員が、親族に未公開情報を伝えて取引させた疑いが浮上。証券取引等監視委員会は9月、金融商品取引法違反の疑いで強制調査し、東京地検特捜部への告発を視野に調べている。
M&A(合併・買収)など企業の未公開情報に基づくインサイダー事件はこれまでも相次いだ。2018年にはSMBC日興証券の元社員が家具メーカーのTOB(株式公開買い付け)情報を知人に漏えいしていたことが発覚。12年には経済産業省の元幹部が公的支援を受けた増資発表前に半導体メーカー株を買い付けたとして逮捕された。ただ、東証社員によるインサイダーは過去に例がないとされる。
JPXは「企業行動憲章」で、インサイダーについて「市場の公正性と健全性を著しく失墜させる」と明記。行動規範として「社員の立場を利用し不正利得を得ている、または第三者に得させている疑念を招く恐れのある取引は厳に慎む」よう戒めてきたが、課題が浮き彫りになった格好だ。
山道裕己JPX最高経営責任者は23日午前、東京都内で海外市場関係者が集うイベントに登壇し、「日本市場をより魅力的にすべく指導力を発揮したい」などと語った。しかし、インサイダー疑惑への言及はなく、記者会見での説明もなかった。
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